17歳の娘が一週間以上も家に
戻ってこない、と依頼してきたのは対象者(娘)の母親。さすがに少し疲れ気味の表情に見えた。口うるさい両親に反発して、それまでも娘は毎月に1〜2回の割合で一泊程度の外泊を繰り返していたそうである。いわゆる「プチ家出」だ。最初は両親も「若い娘にありがちだから」と自分自身に言い聞かせていたようだが、次第に家出頻度が高くなり、知らない間にPHSの番号まで変えられるようになった。‥‥そして、ついに今回の騒動である。辛うじて番号を聞き出していた娘のPHS越しに会話ができるとはいえ、さすがに親としては落ち着いていられる状況ではないだろう。
対象者(娘)の交友関係などを中心に、聞き込み調査を開始した。
しかし意外なことに、聞き込み調査中に依頼者から連絡があり、対象者が帰宅してきたと知らされた。この段階で依頼内容は少し変更され、今度は「対象者が再び家出するところを尾行する」という段取りになった。依頼者によれば、娘が家出する前日になれば明らかな兆候(恐らくは手荷物などか?)が見られるので、すぐに分かるということだった。当社としては、それを信じて指定の期日に張り込みするだけである。
依頼者が調査日を指定してきたのは、それから数日後だった。午前中から張り込んでいた調査員が、自宅から出てくる対象者を目にしたのは午後の4時近く。依頼者の観察力には恐れ入った。さっそく尾行に取り掛かると、対象者は自宅近辺で紺色の乗用車に乗り込んだ。かなり入り組んだ道を走らされたが、特に尾行を警戒されている様子もなく、バイクで尾行に成功。運転席から出てきた若い男性と同時に、助手席から降りてきたのは間違いなく対象者本人だった。2人は市内にあるオートロックマンションに入っていった。
依頼者に確認の連絡を入れたところ、「張り込み続行」との指示が出たため、徹夜も辞さない覚悟で張り込みを続けた。そして対象者が出てきたのは、意外と早く午後7時過ぎ。この時は、先ほどの若い男性の他に、10代後半と思われる若い女性も一緒だった。何となく嫌な予感をおぼえつつも、また同じ乗用車を尾行することになった。尾行の末、対象者を含む2名が風俗街にあるセクシーキャバクラに入ったのを見届けた。どう考えても女子高生が客として入るはずのない店、である。
男性はすぐに走り去ったが、こちらは追尾で帰宅を確認した。
調査員は再び依頼者と連絡を取り、店に入って最終の確認をすることとなった。
尾行担当の調査員は建物近くに残しつつ、店内にスーツ姿の調査員を「客」として入らせる。これが風俗調査の基本パターンである。連絡方法などを調査員同士で打ち合わせた後、いよいよ調査員が入店。間違いなく対象者が店内で働いていることを確認し、源氏名の書かれた名刺と、対象者のPHSとは違う携帯電話番号も手に入れてきた。
ここまで調べて、調査員たちの長い一日が終わった。さっそく翌日、男性の氏名や部屋番号の調査に取りかかった。
少しでも早く連れ戻したい思いはあったが、焦りは禁物。
対象者の今後も考えれば、あまり大きな騒ぎにもできない。ここは、当事者同士の話し合いに持ち込むことが無難と判断した。何も知らずマンションから出てくる対象者。その眼前に現れた両親。
‥‥場所を近くのファミリーレストランに移して、親子の長い話し合いが続いた。どうやら一緒に行動していた男は、交際相手というよりも、家出少女たちの世話役・監視役的な立場だったらしい(もちろん少なからず上前をハネていたらしいが)。
両親の涙ながらの説得に対し、対象者も「本当は、こんな生活やめたかった」と応えた。
これが仕事とはいえ、やはり依頼者から感謝された時には素直に嬉しかった。しかし同時に、この親子にとってはこれからが本当の正念場であるとも直感した。
一度は「プチ家出」から抜け出しても、何らかの拍子に再び家を出てしまうケースは決して少なくない。現在は娘(対象者)も高校に通い、家庭は平和を取り戻しているようだ。願わくば、娘が独り立ちするまでは「家を出る」ことがないように祈っている。